アルコール依存症ってどんな病気

アルコールは精神安定剤の働きがあります。お酒を飲むと、嫌な気持ちが和らぎます。毎日のように飲酒していると、いつの間にか、アルコールによる「安定した状態」に気持ちも身体も慣れていきます。

そして、アルコールは、以前と同じ量では十分な効果が得られなくなる性質がある物質なので、いつの間にか飲酒量も増えます。(耐性)

長年の飲酒により脳の働きが変化してしまいます。飲酒量が増えることで、いろいろな問題が起こりますが、いざ減らそう、やめようとすると、「安定した状態」が「不安定な状態」になるために、うまくいきません。

お酒をやめよう、減らそうと思ってもうまくいかない、それがコントロール喪失であり、アルコール依存症です。「コントロール喪失飲酒」の状態です。

ほかにもっと大切なこと(健康、仕事、家族、信用、自動車免許、etc.)があるのに、飲酒を優先させてしまいます。そして「やめること、減らすことができた」と思っても、油断するといつの間にか元の飲み方になることも特徴の一つです。コントロール喪失状態だからです。本人が「だらしない」「意志が弱い」からではありません。

コントロールが喪失しているので、「ほどほどの飲酒」「お酒と上手に付き合うこと」ができなくなっています。
そのため、治療の目標は「断酒」です。

アルコールをやめる「断酒」は、普通の人が考えるよりもずっと難しいことです。依存症患者さんが断酒に成功することはなかなか難しいようです。

断酒を始めてもついつい油断したり、少しくらいいいだろう、今日だけはいいだろうと考えて飲み始めます。

少しの飲酒から始まり、コントロール喪失のためにいつの間にか元の飲酒量になってしまいます。

早めに病院に相談しましょう!

アルコール依存症の治療について

現時点ではアルコール依存症を完治させる方法はありません。しかし、断酒を続けることで完治はしなくても回復することはできます。「健康」を維持することは可能です。

ただし、断酒を続けて行くことは簡単ではないと言われています。ずっとアルコールを飲んでいた人は、脳がアルコールを欲してしまいます。ついつい飲める理由を作り出そうとしてしまいます。

自力での回復は難しいので、依存症リハビリテーションプログラムに参加することがお勧めです。

アルコール依存症の回復

依存症からの回復のための目標は「やめ続けること」ですが、そのためには「自助グループへの参加を続けること」が大切です。

アルコール依存症リハビリテーションプログラムに参加した後、外来通院に移行します。外来通院では、「3本柱」が重要です。

1.抗酒剤
2.外来通院
3.自助グループ

1.抗酒剤

ジスルフィラムとシアナマイド

アルコールの代謝過程を阻害するため、抗酒剤内服後に飲酒すると、急性アルコール中毒類似の症状になります。

アカンプロセート

比較的新しい薬で「飲んで楽しくなる」ことができなくなる働きがあります。

2.外来通院
断酒開始後、1〜2年は不安定な時期であるために、外来通院が重要です。家族関係や職場での人間関係などがストレスとなり、飲酒を再開しやすいと言われています。アルコール依存症の背景には対人関係の未熟さが隠れているとも言われています。

3.自助グループ
断酒会とAA(アルコホリクス・アノニマス)があります。いずれも、1週間に1〜2回19時あるいは、19時半から1〜2時間、公民館などを会場として、依存症者本人と、時には家族も交えて開かれています。酒害者回復クラブも熱心な自助グループです。「参加者各自が順に体験談を述べ、その他が黙って聞く」といった形式で行われています。その場では、アドバイスや注意などのコメントは一切しないことになっています。
1935年にアメリカでAAが始まり、断酒会は1953年に始まっています。長野県内にも両者あわせると50箇所以上で開催されています。

また、薬物依存の方のNA、ギャンブル依存の方のGAなどの自助グループもあります。

アルコールと家族

アルコール依存症は周りの人を巻き込みます。
※特に、家族の方は多くの悩みを抱えます

本人が飲んで片付けずに眠ってしまう

本人が汚したままトイレを掃除しない

家族が不払いのツケを支払う

具合が悪そうで心配だが、飲み続ける

お酒をやめてと言うが聞いてくれない

お酒をやめると言っても、また飲んでしまう・約束を守ってくれない 等々

家族は悪循環の中で患者の飲酒をコントロールしようと努力を繰り返し、疲れ果てていきます。

依存症本人は飲酒のコントロールができない。依存症患者の家族も依存症患者の飲酒行動をコントロールできないのです。

家族が飲酒行動のコントロールをしようとするのはやめましょう。コントロールができず、がっかりするのはやめましょう。
飲む・飲まないは依存症の人、本人の問題です。家族が「こころのエネルギー」を浪費するのはもったいないだけです。飲む・飲まないは、本人に任せましょう。アルコールで問題が起こったときに、本人が責任を感じることが必要です。

「過去と他人は変えられない、未来と自分は変えられる(エリック・バーン博士)」という言葉を思い出して、自分の生活を充実させていきましょう。

ただし、「飲む・飲まないを本人に任せる」のは、実に大変です。会社をクビになるのではないか、肝硬変・糖尿病が進行するのではないか、近所や世間に迷惑をかけるのではないか・・・不安や心配の連続です。

頭でわかっていても、結局お酒をやめさせようとする「コントロール」に戻ってしまうことがほとんどです。適切な対応方法を身につけるためには、同じ体験をもつ人たちの集まり「自助グループ」に参加することがおすすめです。

そして本人が飲酒をやめることを決めたら・・・
家族は、下記のサポートを考えましょう。

一緒に問題解決方法を考えていく
必要な支援はする
自助グループに参加する

アルコールとうつ

アルコール依存症が進行すると、
健康を失う
職業を失う
家族を失う
信用を失う等々
人生にとって大切なものが次々を失われていくと言われています。

それら喪失体験が繰り返されることで、何ごとにも自信を失い、気力が低下して、うつ病になりやすくなります。また、アルコールは脳の働きを抑制する物質であるため、うつ病を悪化させてしまいます。喪失体験、うつ病が生きる気力を失わせ、最後には人を自殺に追い込んでしまうことが少なくありません。

うつ病のつらさを和らげようとアルコールに依存する人もいます。うつと依存症は密接な関係にあります。

アルコール依存症はさまざまなものを失っていく病気です
アルコール依存症は 身体の健康を失っていく病気

肝臓、膵臓、循環器、脳、いろいろながん・・・

アルコール依存症は 仕事を失っていく病気

酒臭、遅刻、欠勤、作業能力の低下、納期を守れない、信用低下・・・

アルコール依存症は 家族を失っていく病気

ケンカ、約束忘れ、信用低下、離婚、離散・・・

アルコール依存症は 心の健康を失っていく病気

仕事を失う(かもしれない)、家族を失う(かもしれない)、社会的信用を失う(かもしれない)・・・

全自殺者の約75%がうつ病かアルコール乱用か、その両者の合併。アルコールや薬物を乱用している人は自殺率は一般の人の20倍にのぼる。(アメリカの精神科医・カプラン)

アルコール依存症の予防について

アルコール依存症になってしまうと「断酒」が目標になります。「自分より酒を飲む友人がいる」「検診で同僚のほうが肝臓の値が悪かった」「だから自分は大丈夫」と思っているうちに依存症になってしまう方がいます。好きなお酒とお別れしなければいけないのは悲しい。そうならないためにも上手にお酒と付き合っていく方法を学びましょう。

適切な量って? 多量飲酒って?
厚生労働省は、「健康日本21」の中で、「節度ある適度な飲酒」と「多量飲酒」を明確に定義しています。

節度ある飲酒

=1日平均純アルコール20g程度の飲酒

多量飲酒

=1日平均純アルコール60gを超える飲酒

毎日ビールのロング缶を3本飲んでしまえば、多量飲酒となります。多量飲酒を続けると健康が害されたり、社会的または家族的問題の発生リスクが高くなると言われています。

  • ※女性や高齢者はより少ない量が適当です
  • ※依存症者においては完全断酒が必要です
  • ※飲酒習慣のない人に対して、この量を推奨するものではありません

[適正飲酒10ケ条] アルコール健康医学協会

お酒と正しく付き合い、楽しく飲むための「適正飲酒の10ケ条」

談笑し 楽しく飲むのが 基本です

食べながら 適量範囲で ゆっくりと

強い酒 薄めて飲むのが おすすめです

つくろうよ 週に二日は 休肝日

やめようよ キリなく長い 飲み続け

許さない 他人への無理強い 一気飲み

アルコール 薬と一緒は 危険です

飲まないで 妊娠中と 授乳期は

飲酒後の 運動・入浴 要注意

肝臓など 定期検査を 忘れずに

当院では、お酒との上手な付き合い方をさらに知りたい方、多量飲酒で健康に不安があり、お酒の量を減らしたい方を対象に「アルコール健康プログラム」を行なっております。